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がんのリハビリの評価
     
 

 
   
  身体機能のアセスメントツールとして、がん患者の身体機能評価に世界的に広く使用され ているのは、 Eastern Cooperative Oncology Group ( ECOG )と Karnofsy Performance Scale (KPS) です。身体機能の評価は生存期間の予測因子として重要となります。
 一方、日常生活動作(activities of daily living: ADL )評価はリハビリのプログラムを計画す る上では必須の評価です。 現在、世界的に広く用いられている標準的な ADL 評価尺度は、 Barthel Index とその発展版の FIM ( Functional Independence Measure :機能的自立度評価法) です。がんのリハビリテーションにおいてもよく用いられています。
 
【参考文献】
1)
辻哲也 : 臨床と研究に役立つ 緩和ケアのアセスメント・ツール がん患者のリハビリテーショ ンの評価 . 緩和ケア 18( 増刊 ): 161-165, 2008.
 
1) ECOGのPerformance Status
 主に化学療法など積極的治療期における全身状態の評価のために、本がん医療の現場で一般的に用いられていま す。評定尺度は 5 段階で、がん患者の全身状態を簡便に採点できます。しかし、病的骨折や運動麻痺などの機能障害 のために活動性が制限されている場合には、たとえ全身状態が良好であっても低いグレードになってしまい、必ずしも 全身状態を示すことにはならないことに注意が必要となります。
Grade
 
 
0:
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえる。
     
1:
軽度の症状があり、肉体労働の制限は受けるが、歩行、軽労働や作業はできる。
   
例えば、軽い家事、事務。
   
2:
歩行や身のまわりのことはできるが、ときに少し介助がいることもある。
 
軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している。
   
3:
身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床している。
   
4:
身の回りのこともできず、つねに介助がいり、終日臥床を必要としている。
   
(Osoba D, MacDobald N. Doyle F, et al (eds): Oxford Textbook of Palliative Medicine, 2nd ed. Oxford University Press, 1998から引用、一部改変)
 
2) Karnofsy Performance Scale (KPS)
 1948 年に初めて報告された評価法ですが、現在でも ECOG と並んで世界的に広く用いられています。病状や労働・日常生活の介助状況により、 100 %(正常)から 0 %(死)まで11段階で採点を行います 1)
%
症状
介助の要、不要
100%
正常、臨床症状なし
正常な活動可能、特別のケアを要していない
90%
軽い臨床症状があるが正常の活動可能
80%
かなりの臨床症状があるが努力して正常の活動可能
70%
自分自身の世話はできるが正常の活動・労働は不可能
労働不可能、家庭での療養可能、日常の行動の大部分に病状に応じて介助が必要
60%
自分に必要なことはできるが時々介助が必要
50%
病状を考慮した看護および定期的な医療行為が必要
40%
動けず、適切な医療および看護が必要
自分自身のことをすることが不可能、入院治療が必要、疾患が急速に進行していく時期
30%
全く動けず入院が必要だが死はさしせまっていない
20%
非常に重症、入院が必要で精力的な治療が必要
10%
死期が切迫している
0%
 
( Conill C, et al.: Cancer 65,1990 から引用、一部改変)
現在の医療状況と矛盾しないように KPS を修正した Palliative Performance Scale (PPS) も用いられています。信頼性・妥当性についての検証もなされ、新たな身体機能評価法として注目されています 2) 3)
 
【参考文献】  
1)
Yates JW, Chalmer B, McKegney FP: Evaluation of patients with advanced cancer using the Karnofsky performance status. Cancer 45: 2220-2224, 1980
2)
Anderson F, Downing GM, Hill J, et al: Palliative performance scale (PPS): a new tool. J Palliat Care 12: 5-11, 1996
3)
Virik K, Glare P: Validation of the Palliative Performance Scale for Inpatients Admitted to a Palliative Care Unit in Sydney, Australia. J pain Symptom Manage 23: 455-457, 2002
 
3) Barthel Index(BI)
 Barthel Index は 1965 年に開発されて以降、国内外において数多くの研究に用いられてきた実績があり、現在でも簡便な ADL 評価法として汎用されています。 Yoshioka らはホスピス入院中の終末期患者のうち、 ADL に障害のあった 239 名に対して、 Barthel Index の移乗、移動項目で評価し、リハビリ開始時のスコアが 12.4 点、 ADL 訓練を行い到達した最高スコアが 19.9 点であったことを報告しています 1)
評価項目
採点基準(得点)
食事
0, 5, 10
清拭
0, 5
整容
0, 5
更衣
0, 5, 10
排便コントロール
0, 5, 10
排尿コントロール
0, 5, 10
トイレ動作
0, 5, 10
移乗動作(ベッド⇔椅子)
0, 5, 10, 15
移動(歩行もしくは車椅子)
0, 5, 10, 15
階段
0, 5, 10
総得点(完全自立)
100点
( Mahoney FI, Barthel DW. Maryland State Med J 14, 1965 から引用、一部改変)
 
【参考文献】
1)
Yoshioka H: Rehabilitation for the terminal cancer patient. Am J Phys Med Rehabil 73: 199- 206, 1994
 
介護量( Burden of care )の測定を目的とし日常生活で実際にどのように行っているかを観察などによって採点します。 がん医療の領域では、入院時と退院時の FIM の比較で、運動項目は全患者について改善を認め、認知項目についても、頭蓋内腫瘍と終 末期の症状緩和目的以外の患者では改善を認めたことが報告されています 3) 4) 。  
評価項目
運動項目  

セルフケア
食事
整容
清拭
更衣・上半身
更衣・下半身
トイレ動作

排泄コントロール
排尿コントロール
排便コントロール

移乗
ベッド・椅子・車椅子
トイレ
浴槽・シャワー
移動
歩行/車椅子
階段

認知項目  

コミュニケーション
理解
表出

社会的認知
社会的交流
問題解決
記憶
採点基準
介助者不要  

 
7点:完全自立
 
6点:修正自立

介助者必要

 
5点:監視・準備
 
4点:最小介助
 
3点:中等度介助
 
2点:最大介助
 
1点:全介助
 
 
【参考ホームページ】
 
【参考文献】
1)
千野直一監訳 : FIM 医学的リハビリテーションのための統一データセット利用の手引き 原書第 3 版 , 慶應義塾大学リハ ビリテーション医学教室 , 1997
2)
辻哲也 : ADL 評価のための機能的自立度評価法 . 日本医事新報 4050: 93- 95, 2001
3)
Marciniak CM, Sliwa JA, Spill G, et al: Functional outcome following rehabilitation of the cancer patient. Arch Phys Med Rehabil 77: 54-57, 1996
4)
Cole RP, Scialla SJ, Bednarz L: Functional recovery in cancer rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 81: 623-627, 2000